花の目
花の目
 兄から花束を受けとる私の手は無様に震えてしまっていた。様々な色で彩られた花束を、花びら一枚でも散らすことがないように慎重に持つ。

「どうした?」

 兄が私の顔を覗き込む。それから、お前花が好きだっただろ、と続けた。

「……薔薇だったらよかったのに」

 ポツリと呟く。

「へぇ、意外だな。お前は控えめな花が好きなんだとばかり思ってた」

「薔薇が好きなわけじゃないわ。赤い花がよかっただけなの」

 そう言って、そっと花束を机の上に置いた。兄の記憶の中にある、花が好きな少女はもうとっくに消えてしまっている。

「そういえばお前、赤色好きだったな」

 思い出したように兄が言う。そういうわけでもないの、と首を振って、こう訊いた。

「ねぇ、近所の花屋が閉店した時のこと覚えてる?」

 少し考えてから兄は首を横に振った。そう、兄は知らないのだ。あの日の出来事を。

 昔、近所の花屋が閉店した日の夜。あの時から私は花を怖れるようになった。あの日の私は六才で、花が大好きな少女だった。
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