優しい嘘はいらない

「よし、これでいいわ。行きましょう」

「えっ、屈んだら胸元見えそうなんだけど…」

それがいいのと笑顔で返す志乃に腕を掴まれ、連れて行かれた場所は居酒屋だった。

中は賑やかで、店員の大きなかけ声がかかると数人のお客さんがこちらをチラッと見ている。

「いらっしゃいませ…2名様ですか?」

「連れが来てるはずなんですけど…」

連れだと?

その視線の中に連れがいたのか志乃が胸の高さで手を振り、そのまま店員に会釈だけをして席に向かって歩いて行く。

そこにいたのは…

にこやかに笑う2人連れの男性がいて、その隣の席には、五十嵐さんが会社の同僚となのか6人程で飲んでいて驚いた。

彼はこちらに視線だけを向け、意味あり気に片方の口角を上げた。

ウワッ…どうして会うかな?

内心穏やかじゃいられない。

心臓がドキドキと加速する。

志乃も気づいているはずなのに知らん顔で、2人連れの男性の空いてる席に座る。

「お待たせしてごめんなさい」

猫なで声を出した志乃は、空いてる席の前を叩いて視線だけの圧力をかけて座れと言ってきた。

通路を挟んで斜め向いに五十嵐さんと向き合う形になってしまうので、体を斜めに背を向けるように座った。
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