ファインダー越しの瀬川くん
覚悟はしていたはずなのに、思ったよりも落ち込んでいる自分に驚く。

鞄を開けて見れば、ジャージや教科書に紛れるようにして、愛用のカメラが収まっている。
元々写真が好きだったわけでも、趣味で写真をたしなんでいたわけでもない。入部を決めたのは、入学式のあとの部活紹介で見た先輩達の作品に心を惹かれたから。
それまで趣味らしい趣味もなかった山内にとって、それが初めて出来た趣味にもなった。

その年、写真部に入部を決めた新入生は山内の他に一人もいなかったこともあってか、たった一人の新入部員を、先輩達は歓迎し大いに可愛がった。
当然その当時カメラなど持っていなかった山内だが、部の備品ばかり使っていてはダメだと、やはり自分の持ち物だからこそ愛着が湧くのだと、先輩の一人から譲り受けたカメラを、それ以来相棒として長く愛用している。

自分だけのカメラというのはやはり違う。
先輩達もよく言っていた。長く使えば使うだけカメラが手に馴染んで、いい写真が撮れるようになるのだと。
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