MAOU LIFE
~MAOU LIFE 12日目~

天帝「…それでだ、どうしたら皆地獄で罪を償い、天界に来てくれるだろうか?」
魔王「…というかだな、そもそも魔界の貴重な人件費0の労働力、そして下級悪魔兵の消費型強化材料の罪人共を、何故わざわざ天界にやらねばならんのだ?」
天帝「人件費0!?お前…それは流石に…。というか今サラッと恐ろしい事言ったな」
魔王「そもそも生前罪を犯して地獄に投獄された連中だ、どう扱われようと文句を言える立場ではない」
天帝「正論は正論だが…こういう意見を聞くとお前が悪魔だという事を思い出すな」
魔王「どういう意味だそれは?」ギロッ…
天帝「えっ?…いやぁ~…その~…」プイッ…
魔王「顔を逸らすな!まぁ良い、本題に戻るが、要するにお前は生きている人間共を天界に入国するに相応しい人格に導けば良いだけの話であろう」

魔王城の魔王の間で、ゼクスはアーリアから相談を受けていた。

死神「魔王様、お話の所申し訳ございません。今…宜しいですか?」
魔王「何事だ?」
死神「はい、勇者と名乗る者が城の門の所に来ておりますが、如何されましょう?」
魔王「構わん、通せ。あと、兵達に一切手を出させるでないぞ?勇者にも城の者には手を出すなと伝えておけ」
死神「かしこまりました」

ゼクスはシャルルとベビーベッドを玉座裏の部屋に移動させ、魔王剣を召喚した。

天帝「私が言うのも変だが、乗り込んできた人間に一切手を出すなとは珍しいな?この場合は特に条約には触れない筈だが?」
魔王「労災の削減だ。それより、天界のトップが我と雑談している所を人間に見られては体面上悪かろう。人間が来る前に裏の部屋に隠れておれ」

それもそうだとアーリアは裏へ移動しようと椅子から立ち上がった直後、正面の扉が開き、勇者が入ってきた。

魔王&天帝「「早っ!!!」」

アーリアはとっさに翼を収納して隠し、魔力で鎧の色を銀から黒に変えた。「お前そんな事できんの?」という顔でゼクスはアーリアの方をまじまじと見た。

天帝「き…貴様が勇者か?」ゴルァ…
勇者「そ、そうだ!魔王ゼクス、か、覚悟しろ!」タジッ…

天帝はドスのきいた声で自分は神ではなく悪魔ですとアピールするように演技した。もともと厳ついアーリアが声にドスをきかせる事で更に迫力が増し、天帝アーリアは魔王と間違えられ、剣を向けられてしまった。

勇者「お前が俺の村にバジリスクを大量に輸入してきたせいで、もともと飼っていた鶏は全て食い殺され、村人も大半が石になって蘇生代がとんでもない事になった!」
天帝「………え?」チラッ…
勇者「だからこれ以上の被害が出ないようにお前を倒す!!」

勇者が剣を振りかざしアーリアに向かってくる。アーリアはわざと勇者に当たらない様に魔力を放出。勇者を牽制して後ろに跳び、ゼクスの横に着地した。

天帝「解体してブロック肉の状態ではなく、お前は生きたまま輸出しておったのか?!」
魔王「解体して輸出すると多額のコストが掛かる。主に対人間界の輸出専用屠殺場の建設費とかがな。それに…」
天帝「それに?」
魔王「我は親切にも輸出用バジリスク肉の説明概要にも『生物』と記入しておいたんだが、それに人間界側の了承印を押されておったから、我は一番鮮度の高いセイブツとして輸出してやったのだ」
天帝「ナマモノとセイブツ、どちらにも読める事を利用した確信犯か……本当に悪魔だな」
魔王「ところで、あの人間…完全にお前を我と思い込んでいるようだな。今更訂正するのも格好がつかん。お前が我の代わりに戦え」
天帝「えっ…?」
魔王「ちなみに負けたら二度とお前の愚痴は聞かんからな?ついでにお前の家族にアーリアはたかが人間一匹如きに手も足も出ずに即負けた、と告げ口もしてやろう」
天帝「ちょっ…!!」
魔王「それが嫌なら絶対に勝て。本来人間の味方であるはずのお前が…な?」ニヤニヤ…

『自分の愚痴や弱さを聞いてくれる唯一の理解者の喪失と、更に家族に馬鹿にされて悪化が進むと予想される近い未来』と『人間を守らなければいけない自分の存在』の葛藤に挟まれて、アーリアは「こいつはやっぱり悪魔だ…」と思い悩み苦しみながらも、前者が勝って槍を勇者に向けてしまった。

天帝「わた…ゴホン、我とお前の実力差は費をみるより明らかであろう?死にたくなければ引け!」
勇者「ふざけるな!俺は勇者だ!絶対に引かない!」
魔王「ククク…勇者よ、一つ取引をしないか?」
天帝「!?」
勇者「なんだお前は!」
魔王「今回の貿易担当責任者だ」
天帝「この悪魔!!!(小声)」
勇者「という事は…」
魔王「あぁ、貴様の村に生きたバジリスクを大量に輸出した張本人だ。それで提案というのは、貴様がもし魔王ゼクス様に一度でも攻撃を当てる事が出来たら、解体したバジリスクをタダで輸出して、更に村人全員の蘇生代と鶏代の全額保証をしてやる。だがもし攻撃を当てる事が出来ずに剣を砕かれれば貴様の負けとし、バジリスク1羽につき1000G上乗せ、更に輸出品目を1種類増やす。まぁどちらにせよ、貴様の命は助かるが、どうだ?」
天帝「なっ…何を勝手な事を…」
魔王「おやぁ?こんな人間一匹如きに…自信が無いのですかぁ?」ニヤニヤ…

ゼクスは勇者に取引を持ち掛け、更にアーリアには邪悪な笑顔を向けた。アーリアは一度槍を向けた以上、引くに引けない状態となっており、更にゼクスから弱味を握られ絶対に負けてはならない状況に追い込まれていた為に、鎧の下では滝の様な腋汗をかいていた。

勇者「いいだろう!その条件飲んだ!」
魔王「ほら、人間の方はやる気満々ですよぉ?」
天帝「………い」
魔王「わかっておるだろうな?(小声)」ギロッ…
天帝「良かろう…」ヒクッヒクッ…
魔王「契約成立だな」

契約成立となった瞬間、勇者の右手に一瞬焼けつくような痛みが走り、契約の刻印が刻まれた。それを見て勇者は頷き、剣を構えアーリアを睨みつける。

勇者「いくぞ!魔王ゼクス!」ダッ…!!!

勇者はアーリア目掛けて一気に走り出し、横に回転し一閃する。

天帝「………やはり私には出来ん!(小声)」
魔王「…チッ」

甲高い金属音と共に勇者の剣はアーリアの鎧の胴部分に当たった。アーリアは最後の最後でやはり人間は裏切れないと、そのまま何もせず黙って攻撃を受けたのだ。

勇者「…や…やったぞ!」

勝利したと喜ぶ勇者のもとにゼクスはつかつかと歩いて行き、デコピンで剣をへし折った。

魔王「残念だったな?」
勇者「何をする!!それよりも何が残念な事なんだ!?俺は魔王ゼクスに攻撃を当てた!契約を守れ!」
魔王「貴様がな?」
勇者「何を言っている!?」

ゼクスはマントの様に折りたたんでいた6枚の翼を一斉に広げ、邪悪で強大なオーラを解き放つ。その姿とオーラは誰しもが魔王だと分かる圧倒的なものだった…。

魔王「魔王ゼクスとは我の事だ」
勇者「そんな…き、汚いぞ!」
魔王「貴様が勝手に勘違いしただけの話であろう?」
勇者「うっ…で、でも…でもさっき貿易担当責任者だって…」
魔王「我の業務内容の一つだ」
勇者「で、でも…」
魔王「貴様の手に刻まれた刻印をよく見ろ」

勇者は再び右手に視線を向けた。手の甲には竜のような刻印が刻まれている。

魔王「それは歴代の魔王が先代より必ず受け継ぐ家紋と同じものだ」

ゼクスは右の腕甲を外して、勇者に腕を見せた。そこには同じ刻印が刻まれていた。

魔王「右腕だけではなく左胸の部分にも刻まれている。まぁ…右腕の紋章はあくまで契約成立時の手形印みたいなものでやや簡略化されており、本来の家紋は左胸の方だがな」ドヤァ…
勇者「………」
魔王「ちなみに今すぐ自害しても構わないが、契約破棄の条件として貴様の魂は永遠に地獄に囚われ、24時間無休憩・無賃金で働き続ける事になる。そして今ちょうど魔界の糞尿処理場の人員を選んでいる最中でな、貴様はそこで永久に汚物にまみれ…」チラッ…
勇者「…っ!…わかった…契約は果たす…」

ゼクスは糞尿処理場の参考資料(写真付き)を勇者に見せると、想像をはるかに上回る悲惨な内容に、勇者は泣く泣く契約を守る事を決め、人間界に帰っていった。

天帝「…ゼクス、お前…悪魔を通り越して…鬼畜だな」
魔王「魔王だからな?それよりもアーリア、お前…」ジロリ…
天帝「うっ…すまない、やはり人間は裏切れなか…」
魔王「まぁ良い…今日はお前の面白い姿が見れたし、それに免じて許してやろう」

ゼクスはアーリアの一連の流れを思い出し、腹を抱えて笑った。

死神「魔王様、今日の勇者の件、まことにお見事でした!天帝様すらも手玉に取り、歴史にも名を残すとなる事でしょう!」
魔王「そうであろう?」
死神「はい!見事なる魔王振りに感激致しました!普段のお務めも今日ぐらいのやる気を見せて頂ければ良いのですが…魔王様は得意分野と不得意分野の差が激し…(以下略)」ウンタラクンタラ…
魔王「………帰るか」

アーリアが帰った後、デスはゼクスの名裁きを誉め千切っていたが、そのまま藪蛇な内容に移行し、いつもの長~い小言が始まった為、ゼクスはそのまま裏部屋にいた妻と娘を連れて帰宅した。

天帝「あぁ…許してくれ…勇者よ…」
柴犬「くぅん…くぅーん…」ペロペロ…

一方アーリアは自宅の庭で安酒を煽り、激しく懺悔していた。

~MAOU LIFE 12日目~ 終
< 16 / 52 >

この作品をシェア

pagetop