好き/好きだった
「大祐、大事な話がある」
5月に入って2回目の土曜日、日課になっていた夜の電話で亜矢美に
切り出された。
「どうしたの?」
その声は再び震えていた。
「私たち、友達に戻ったほうがいいんじゃないかな。
気軽に会って話して帰るような」
意味が分からなかった。声だけでなく手も足も、心も震え出した。
少なくとも、彼女の声もまた震えていた。
「なんで……」
「だって……」
そういって彼女が語り出したのは俺の知らない、でも確実に
自分自身に対する嫌悪感と我慢だった。
「会うたびにしてる。身体目的なの?」
「話すことが友達とかの悪口ばっかり。私も馬鹿にされてるみたい」
「資格のために勉強したい。でも、その時間も取れない」
「学校がある日もかまわず夜遅くまでデートしているせい」
「何十分も前から待ってるのは正直怖い。実家のレストランを
調べられるのも怖かった」
「もう恋愛につかれた」
「自分の時間が欲しい」
「学校ある日に会うのは嫌だって言ったのに……」
一通り出し切った後、電話は切られた。
そのあまりに衝撃的な言葉と、彼女に疲労と我慢を押し付けていた
自分を俺は拒絶して、嘔吐した。
1時間して、再び電話が鳴った。
「もしもし……」
その声はか細く、病床に横たわる病人のようだった。
俺はその質問をせずにはいられなかった。致命的なその一言を、
聞きたくはなかったそれを聞かないために。
「俺と別れたい?」
「……うん」
数秒ほどの沈黙の後、ついに伝えられてしまった。
その2文字に頭を掻きまわされ、精神を貪られた。
「15日間、距離を置こう。そして考え直してほしい。
俺は自分を変える。反省して、そのうえでまた付き合いたい」
泣きながらそう言うのが精いっぱいだった。
電話の向こうから鼻をすする声がした。
「わかった……ばいばい。またね……」

その一言を最後に、連絡は途絶えた。
今日で4日目になる。2日目に俺は高熱を出し寝込んでいた。
夢には笑顔の亜矢美がいた。
その姿をまた目にすることはあるのだろうか……
あと9日、何をすべきなのだろうか……
その答えを出せないまま亜矢美を写真で自慰をして、
俺は5日目を迎える準備をした。
亜矢美の写真と痕跡を少しだけ消去した後に。


(side of D 完結)
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