好き/好きだった
「大祐、大事な話がある」
5月に入って2回目の土曜日、日課になっていた夜の電話で
私は大祐に別れを切り出した。わずかに残る煙の可能性を
考慮して友達に戻りたいというあいまいな提案を最初はした。
「なんで……」
大祐の声は震えていた。都合のいい所有物を失いたく
なかったんだろうと思う。
そうは思いつつも、わずかに残る煙は私の顔を濡らした。
湿りはやがて流れへと変わった。私から、耐えてきた、我慢してきた、
ずっと思ってきたことを洗い流し、電話の向こうにいる
大祐を襲った。電話を切った。
やがて流れは清流へと変わり心は穏やかになった。すっきりした。
でも、不思議と涙は止まらなかった。大祐は最後まで
涙を流さなかったみたいだったが……
しばらくして私は再び大祐に電話をかけた。
大祐はか細く震える声で
「俺と別れたい?」
と、藁にも縋るといった感じで私に質問した。
私は呼吸を整えて、死刑宣告を下した。
大祐から15日間の執行猶予を求められた。
「わかった……ばいばい、またね……」
私は再び涙を流していた。大祐と過ごした、
楽しかった時の記憶がフラッシュバックした。

執行猶予は残すところ9日になった。
私の勉強時間は増え、一人でいることの楽しさを再認識した。
私はこれでこそ私なのだ。
それでも時折、本当に時折、楽しい思い出がフラシュバックする。
もしかしたらロウソクは輝きを取り戻すかもしれない。
限りなく少ないその可能性と、悩んだ末に出した決断の間で
私は今、とても揺れている。
答えはまだ見つからない。

(side of A 完結)
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