運命の扉
放課後

全体集会を終え、帰りのショートホームルーム。
「今からプリントを配るから、そのアンケートに答えてね。書き終わった人から帰っていいわよー!」
向井先生は、アンケートを配り始める。
手元に渡った紙には【プロフィール】の文字。
誕生日、趣味、所属部活。と、その他にも質問項目が挙げられてる。
「みんなが円滑にコミュニケーション取れるように、冊子にまとめたいから宜しくね!書き終えたら、男子は真中くん、女子は井上さんに渡して下さい!」
新学期早々、役員の仕事か。汐里に連絡しなきゃ。あたしはカバンから携帯を取り出してメールを打つ。
『副委員長になっちゃって、仕事任されてしまった。今日は悠人と先に帰っててもらえるかな?本当にゴメンね。』
送信ボタンを押して、携帯をカバンにしまいながら悠人に声をかける。
「悠人、悪いんだけど、汐里と先に帰ってもらえるかな。」
「あっ?」
「汐里と、先に帰ってて。」
「俺、今日から部活なんだけど。」
悠人はペンを持つ手を動かしながら、無愛想に答える。
「えー!どうしよう。」
汐里、1人で帰ったことなんてないのに。
「心配なの?」
悠人はペンを机に置いて、あたしを見る。
「心配っていうか…1人で帰ったことなんてなかったから。」
「汐里もそこまで寂しがりやじゃないだろ。俺からも言っとくから。」
「うん…。」

一人の生徒が書き終え、あたしの机に足を向け始めると次々とアンケートが集まってくる。
「じゃ、俺帰るわ。」
悠人も真中くんの席へプリントを置くと、教室を出ていってしまった。
あたしもプリントにペンを走らせる。
誕生日、2月15日。趣味、カラオケ、ショッピング。以外と記入事項が多い。
全て書き終える頃には、教室に真中くんの姿しかなかった。
「井上さん。」
あたしが書き終わるのを見計らって、真中くんがニコニコと両手にプリントを抱えて、悠人の席に座った。
「終わった?」
「うん、今終わったところ。」
「井上さんの見せて!」
「えっ、うん。はい。」
「これ、俺のやつ〜!」
あたしがプリントを渡すと、真中くんのプリントを引き替えにくれた。
「へぇ。井上さんって二月生まれなんだ。」とか「趣味、カラオケ!今度俺と行こうよー。」とか隅々まで読んでコメントをしてくれる。コロコロ変わる表情。なんだか、見ていて微笑ましい。
あたしは真中くんのプリントに目を通す。
誕生日、5月2日。趣味、野球
「真中くんって本当に野球が好きなんだね。」
趣味、野球。
なんだか、素敵だと思った。
「うん、俺の命!」
真中くんは、満面の笑みを浮かべてガッツポーズをした。
「いつからやってるの?」
「小学生3年のとき!なんか、ビビっと来たんだ〜。俺さ、それまでは何やっても続かなかったのに、野球だけは9年やってんの。」
きっと、野球が彼を選んでくれたんだろうな。そう思わせるくらい真中くんの笑顔は素敵なものだった。
「井上さんは、何か習いごととかしてた?」
「あたし?」
「そうっ。」
「んー。ピアノとバレエはやってたけど…中三で辞めちゃった。」
「バレエって踊るやつ?」
「うん。お母さんが舞台とか大好きで。6歳の時、妹と一緒に。」
「妹って隣のクラスの?」
「あっ、知ってたんだ。」
「うん!井上さんのことなら、完璧!」
真中くんは得意げに軽く握った右手で胸を軽く叩いた。
いつから、あたしのこと知ってたんだろう。汐里と双子だってわかってるし、見間違いでもなさそうだし。
「あっ、ごめん。」
少しの空白の時間に、真中くんは気まずそうにした。
「ううん。」
「井上さんは、俺のこと知ってた?」
「…ごめんね。今日、知った。」
真中くんがあたしの存在を前から知ってたのに、あたしは知らなかった。なぜかそのことを申し訳なく感じた。
「マジかー!」
そう言って、机に頭を伏せた。それと共に、ゴツっと鈍い音がする。
「いてっ。」
慌てて体を起こして鈍い音を立たせたおでこに手を触れさせる。額はほんのり赤く滲んでる。
「大丈夫?!」
「大丈夫、大丈夫!」
またニーっと笑う。
「俺はずっと見てたんだ。井上さんのこと。」
ふと真剣な顔になる。
「えっ?」
あたしが驚いた顔をすると、さっきまでのニコニコ笑顔に変わった。


「1年の文化祭前かな。」


真中くんは、あたしを知ったきっかけを教えてくれた。

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