憧れの染谷くんは、いつも

結局、染谷くんとはそれ以上話さなかった。
話さなかったというよりは、話せなかったといった方が適切かもしれない。
仲川さんがそのまま近付いてきて、染谷くんと話し始めたのだ。

私の、全く知らない話題だった。

そのまま営業部フロアで染谷くんと仲川さんはエレベーターを降りていく。


後ろ姿を見て、なんて釣り合ったふたりなんだろうと思った。仲川さんは、染谷くんのオーラにも全く引けを取らない。


私はとぼとぼと自席に向かう。
何となくだけれど、今朝の仲川さんの行動はわざとだと思った。この間の仲川さんと東海林さんの会話から、染谷くんと私のことを怪しんでいるような雰囲気がしたためだ。

彼女が心配するようなことは何にもないというのに。


染谷くんは底抜けに優しいから、きっとあんな風にやきもちを焼かれることが多いんだろう。それならもう、私は染谷くんに近付かない方がいいのかもしれない。

パソコンが起動するのを待ちながら、そんなことばかり考えていた。


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