食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
10月 俺が姫を守る
10月になり、辞令が出た。

周りに割と驚かれたけど、俺だけじゃなく何人か同時に異動のタイミングだったし、なくはないだろって思われてるらしい。



武田さんが飲もうぜって誘ってくる。

「お前田代さんに気に入られてると思ったのにな。異動って言われてた?」

「先週。営業と若いうちに人事交流するってことらしいですよ」

それ以上言うなってことだろうから、人事課長に言われた通りの理由を伝える。


「そうか。開発でもこれからってとこなのに、もったいないことするよなあ。でも、平内ならな。香はきつそうだったよ、営業」

「人選ミスですよね。なんでだったんでしょうね」

技術寄りの男は嫌だったとか、あるんだろうけど。細かいとこは見るけど営業で提案とかするタイプじゃないのは明らかだ。

「営業部長に気に入られてたんだよ、あいつ。結局、川井さんがなんのかんのかばってくれたらしいよ。まあうるさい人だけど、仕事取ってくるのもあの人だしな」

「かばってくれたって?」

「部長って女好きらしくてさ。川井さんが香を下につけて、ちょっかい出されないようにしてくれてたって。営業の広瀬さん情報。香はわかってなさそうだけどな」

「姫ですからね」

「守られてんだよなあ」

武田さんは上を向いて思い出すように言う。守ってたよなあ。



「あいつ鈍感すぎて、誰が近寄っても結局鉄壁だけどな」

確かに。なんとか突破したけど。

「男のほうがいいよ、営業に回すの。お前も重宝されるよ、きっと。ま、田代さんが香手放すはずないけどな」

「ないですか」

「部下として便利に使ってるってこと。手出す気はないんだよ。香って本気になったら重そうだろ」

「あー、ですかね」

付き合ってること、切り出し損ねた。

黙っとけって言われてるけど、後でばれたらまずいな俺。


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