初恋の彼が、割と重度のフェチ持ちでした
「なずな、ほんと悪かったよ」

玄関の向こうにいる柊ちゃんは、顔は見えないけどほんとに申しわけなさそうな声をしていた。
ていうか、そう思ってくれているからこそ家まで来てくれたんだよね。家、そんなに近くないのに。


そう思ったら無視する気にはなれなくて、私はまた「……うん」と返した。


柊ちゃんは続ける。

「俺さ、今まで付き合ってきた恋人たちには、フェチのことはやっぱり気持ち悪がられてたんだ。でも、なずなは気にしないよって言ってくれたから、俺はそれがすごくうれしくて、つい、なずなの気持ちも考えずにやりすぎた。不安な気持ちにもさせたと思う。本当にごめん」

「うん……」

「今度の土曜日、予定ないって言ってたよなっ? なずなの行きたいとこ、どこでも連れてくからいっしょに出かけようぜ」

私が「わかった」と答えると、柊ちゃんは

「じゃあ今日は帰るな」

と言って、彼がアパートの階段を降りていく足音が聞こえた。


顔を合わせる自信がなかった。でも、彼の真剣な気持ちが伝わってきたから。


私は玄関の戸を開けた。そして。


「柊ちゃんっ」

二階の玄関先から、手すりにつかまり、アパートの下を歩く柊ちゃんの名前を呼んだ。柊ちゃんは振り向いて、私の方を見上げた。



「来てくれてありがとう。土曜日、楽しみにしてるねっ」

そう言うと、柊ちゃんはにっこりと笑ってくれた。
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