冷徹社長が溺愛キス!?
「だからね、お母さん――」
「ただいまー」
「あら、お父さんだわ。何か釣れたかなー?」
帰宅を知らせるお父さんの声に、お母さんはパタパタとスリッパの音を響かせて玄関へ向かってしまった。
このところ、釣りを趣味とするお父さんは、休みになると朝から晩まで海釣りへと出かけているらしい。
大きなクーラーボックスを肩から提げ、お父さんがキッチンへ顔を出す。
帽子を取ると、日焼けした顔がニッコリと笑みを浮かべた。
「なっちゃん、おかえり」
「ただいま。何か釣れた?」
「いやー、今日は全然ダメだったよ。いい潮がきているっぽかったんだけどねぇ。周りの人たちもてんでダメだ。おや、今夜はシーフードカレーかい」
まな板の上に並んだ食材だけで分かるとは、さすがにお母さんと連れ添って長いだけはある。
「じゃ、出来るまで一杯やるとするか。なっちゃん、美優は?」
「上にいると思うよ」
お父さんはクーラーボックスをキッチンの隅に置くと、階段の下から大きな声で美優を呼んだ。
美優はお父さんの晩酌相手なのだ。
本当は息子と飲むのが夢だったらしいが、美優もなかなかいける口だから、それはそれで楽しんでいるみたいだ。
私はというと、ビールをコップ一杯飲むのが限界。
お酒はあまり得意ではない。
お母さんに変わって、グラスをふたつと冷蔵庫からビールを出し、対面キッチンの向かいにあるダイニングテーブルに並べた。