飛梅ちゃん
3
時間は夜の7時を回ったばかりだ。

家賃は軽く25万を超えるであろうマンション。

そのマンションの11階の1106号室の前に女の影がある。

インターホンを鳴らし、少し待つと玄関扉が開いた。

「入れよ。」

無愛想にも聞こえる声に、女の心は弾んだ。

女は、玄関に入ると中にいる男に言った。

「賢人、逢いたかったよ。」

男は、女を見ると言った。

「あい、急に会いたいってのは無しだって言ったろ?」

あいは、すねたフリをして賢人の気を引こうとするが、賢人は部屋の中へと一人入って行く。

あいは、お気に入りの白いハイヒールを脱ぐと子犬のようについて行った。

リビングの中に入って、あいは言う。

「最近、なんか良くないことが続いちゃって…賢人に会いたくなって…」

あいは、脳裏にあの少女がよぎる。

賢人も、あいの言葉を聞いてあの少女がよぎる。

賢人が、その恐怖をぬぐう様に言う。

「また、店来いよ。たまには息抜きした方が良いんじゃないか?」

あいは、リビングの黒いソファに座ると立っている賢人を見て言う。

「お店じゃないとダメ?今日みたいにもっと会えない?」

賢人は、キッチンに向かい冷蔵庫を開ける。
中を覗くと、缶ビールを取りだし冷蔵庫を閉めた。

缶ビールを開け、あいの方を振り向く。

「あい?」

「え?」

「お前、なんのつもりだ?」

あいは、賢人の言っている意味がよくわからなかった。

賢人は、あいの近くにゆっくりと寄って再び言う。

「お前は、俺の何だと思ってるんだ?」

あいは、賢人の目を見て怒っていることを察知して目を伏せる。

「賢人こわい…」

賢人は、あいの隣に座ると言う。

「お前は、何だって聞いてるんだけど?」

あいは、小さい声で言う。

「彼女…」

賢人は言う。

「彼女なら、彼氏の言うこと聞けるよな?」

あいは、沈黙する。



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