いつかそんな日がくればいい。【短】

大きな風が、御神木の葉を揺らす。


湿気を帯びた夏独特の香りが、鼻をかすめた。



大きく見開かれた彼女の瞳は、瞬きすら忘れているようだ。



先に口を開いたのは、彼女だった。


「…からかって…るの?」


「まさか。」


「だ、だって、松田君…吉川さんのことが、好きだったんでしょ!?」



俺だってそう思ってた。


学校で吉川を見つければ、自然に目で追っていたし、


吉川と話せた日は、なんだかいつもより良い日な気がした。


目指してる高校が別だと知って、最後に吉川と思い出を作れたらって…。


吉川に対する想いだけでも知ってもらえたらって。


そんな気持ちで、吉川を今日の祭りに誘ったんだ。


今思えば、俺は端から吉川と付き合いたいなんて頭になかった。


だからさっき、黒崎に吉川が拐われていくのを俺はあっさりと見送れたのかもしれない。



でも…


もしもあれが白田さんだったら?


俺は一体どうしていたんだろう?

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