じれったい
「矢萩さんが見に行くと言うなら、僕も見に行きましょうかね」

そう言った玉置常務の顔を私は見つめた。

たった今大好きな映画の試写会に行ってきたからなのか、玉置常務は上機嫌だった。

その後の食事会で飲んだワインに酔っ払っていると言うのも、少しは関係しているのかも知れない。

今朝とは違い、上機嫌な玉置常務に私はホッと胸をなで下ろすと窓の外に視線を向けた。

移り変わって行く窓の景色に、私は今朝の出来事を振り返った。

お兄さんを相手に敬語を忘れて怒鳴っていた玉置常務は、私が知らない玉置常務だった。

一体、お兄さんとの間に何があったと言うのだろうか?

お兄さんのことを切り出してみようと思ったら、
「あっ、つきましたね」

玉置常務が言ったのと同時に車が止まった。
< 197 / 273 >

この作品をシェア

pagetop