じれったい
15・全てを絶ち切って前を向く
玉置常務が高校卒業まで過ごしたと言う故郷は、片田舎の小さな町だった。

「ここに祖父が働いていて、僕が好きで通っていた映画館があったんですよ」

そう言って案内してくれた映画館はなくて、有料駐車場になっていた。

玉置常務の思い出の映画館は、彼が故郷を出て行ったその後に潰れてしまったようだ。

映画館を見たかったけれど、潰れてしまったのなら仕方がない。

玉置常務は周りを見回すと、
「僕が離れていた間にこんなにも変わってしまっていたんですね」
と、言った。

「あそこにパン屋さんがあって、そこのクリームパンが好きで祖父にねだって買ってもらっていたんですけど…今は、コンビニになっていますね」

玉置常務が指を差した方向に視線を向けると、パン屋じゃなくてローソンだった。

ぼんやりとローソンを見つめている玉置常務に、
「玉置常務」

私は声をかけた。

「ええ、そうですね」

玉置常務はわかったと言うように返事をした。
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