3.5センチメートルの境界線

大好きな



「……どうして、どうしてそんなこと言うの…?」


「…………」


「私は、私は…ずっと……。」




何も言わない俊太。


言葉は今も絵理に希望を与えてはくれなかった。






何故、何故

いつからだった、こんなことになったのは



私は今も傷つく事を恐れて何も言えない
私は強くなんかない



…ねぇ俊太、私まだ部活の皆とちゃんと話せてないの
恐かったけど、それでもちゃんと部活には行ったんだよ


俊太が慰めてくれたから、私には勇気が湧いたんだよ

私には俊太がいるって、思えたんだよ


なのに、どうしてそんな事言うの


私は、

私には…





「…それだけ言いたかった、…そろそろ時間だ。」








待って、行かないで








「……じゃあな、絵理…」









私にはまだ、伝えたい事があるの

お願い、待って










「…元気でな」





「…っ……待って!!」







溜まっていたものがあふれ出すように、突然大声がでる。


震える手を握りしめ、扉を見つめる。


真っ直ぐに、彼を見る。





「…私も、…大好き」


「………絵理……」





涙は止まらなかったが、伝えなきゃいけない。


今伝えなきゃ、きっと私はなんにも変わらない。
俊太の事も、思い出もこの部屋に転がったままだ




「忘れるわけない…忘れられるわけない。
この先もどんなに辛くったって、俊太との思い出を抱えて生きる。
どんなに泣いたって、悲しくて仕方がないけど。……ずっと……」





止まりそうな言葉。



うつむいて呼吸を整えるが、落ち着くわけがない。


それでも手を固く握り、前を向く。





「ずっと、俊太を想い続ける。」


「…っ……。」





絵理の言葉が終わると同時に、嗚咽が扉の向こうから漏れる。


絵理はいつもの笑顔で扉に触れる。




「…泣くなよ、泣き虫俊太。」


「…っ…お前にだけは言われたくない…。」


「あはは、そうだね……私も泣き虫だ…。
…大好きだよ、ずっと。」


「あぁ…俺も。…浮気すんなよ?」


「なによそれ、私が浮気するような軽い女に見えるわけ?」


「ははっ、全然見えない。」




お互い、涙で頰は濡れたままだったが、それでもあの頃のように…笑顔だった。




「……それじゃあ、もう行くよ。」



「…そっか……うん、分かった。」



「…じゃあな、絵理。」






精一杯の笑顔を浮かべる。






「うん、バイバイ。俊太。」













蝉の音はまた、

動き出した。
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