意味がわかると怖い話
意味がわかると怖い話 1




何故俺はこんな所にいるんだろうか。
病気にもなってないのにここ最近はずっと病院生活で、身も心も疲れきっている。

救いといえば、父母に妹が会いに来てくれることだけだ。
本当に理由がわからないので、少しこれまでに起こったことを書いてみることにしよう。


あれは確か、去年の6月頃だったか。

俺は人生の中で絶頂を迎えていた。
綺麗な女性と結婚し、早くも子供の名前なんて考え始めでいたような気がする。
その時は毎日が幸せで、いつも妻と仕方のない愚痴を話し合ったり(共働きのためである)
時にはポジティブな会話も交えて皮肉を言い合ったり、それは充実した日々だった。


が、それは泡のように一瞬で消え去ることとなる。

結婚して1ヶ月。
会社で仕事をこなしていた時の事。
営業の仕事だったので、その地区にあるたくさんの家庭に訪問していた。
少し暑くて、夏は地獄だろうなと思っていたかな。

不意にポケットの携帯が鳴った。
疑問を持ちながら、携帯を取り出すと、知らない番号が表示されていた。
留守電ならば仕事を終えてからにしようと思ったが、会社の人間である可能性が頭に浮上したため、しぶしぶ電話に出た。


「…さんで間違いないですね?」


「はい。」


「…病院の佐藤と申しますが、奥様の事で、お電話させて頂きました。」


少し嫌な予感がした、が、それを振り払って貧血なのか、と問う。
やはり佐藤と言う女は怒られる前の子供みたいに声を出した。


「奥様が、事故で。」


気が動転した。
吐き気がした。
頭がグラグラと揺れて、夏が来るより早く、地獄はやってきてしまった。


「妻は、妻は無事なんですか!」


「残念ながら。」


「は?いや、なんで、あっ、と、今すぐ行きます。」


そう言うと俺は駆け出していて、会社に連絡も入れず、病院へ、ただ足を動かした。
そうしないと殺されるかの様に、まるで死神に追いかけられているかの様に。


病院に着き、妻の顔を見ると、いつもと変わらぬ妻が寝ていた。

本当に、ただ眠ってるだけに見えた。
絶対に無い可能性を求めて、医師を見るが、察した様に首を振る。


その時、全てが崩れ去った。



それから先3ヶ月はよく覚えていない。
多分、家でずっと寝てたんだろう。
それか、呑気にゲームでもしてたんだろう。


ああ、そろそろ休みも終わりか。
仕事、どうなってるかな、下手に変わってないといいんだけど。
そうして誰もいない家を出て、髪も直さず仕事に向かった。


上司に呼び出され、解雇でもされるのかと思ったが、担当変更、だそうだ。
その日からはパートの仕事を多めにこなす。
ただそれだけ。
多分ひどい顔でもしてたんだろう。
上司が優しくて良かった。
ああ、本当に良かったなぁ。

ミスは連発だったが。
誰も何も言わなかった、気を使われているのだ。
精神病寸前の俺を、ここで完璧に折ってはいけないという、皆の優しさで。
でも、やっぱり気は狂いそうなままだった。
ミスを減らす事は出来たのだが、涙が時々こぼれ落ちて、仕事にならない時間ができる。
1時間仮眠をとって、再開して。
家に帰ったら、母さんと妹が、料理を作ってくれている日も少なくなかった。

そんな底ぬけした日々が続いていた、ある日の事だった。

その日はとても疲れていて(久しぶりに仕事を増やしたからだろう)、早くに眠った。

それでも眠くって、もっと奥へ行きたいなんて、訳のわからない事を考えていた。
そうしていると、真っ暗な場所で、1人の女性に話しかけられた、会社の子だろうか。
妻によく似ていた。

その女性は優しかった。
自分は何も言わず、俺のジメジメした最低の愚痴をずっと聞いているのだ。
それが嬉しくて、また同じように話し続ける。
偶に慰めてくれて、心底嬉しかった。


それを励みにして、頑張った。
食生活はある程度保たれていたので、復帰するのも早かった。
そして、仕事が終わってまた彼女の元へ。

ずっとそんな日々が続いて、俺は妻の遺影の前で、泣いていたのが、笑う様になった。

あの時は楽しかったね。あそこには来年行きたいな、またあのラーメンが食べたいよ。
みたいに、過去の話をしたり。
前みたいに愚痴をこぼしたり。

自分でも料理を作るようになって、妹と母が来る頻度が下がった。
先月位は、月一だったかな。

俺は意を決して、彼女に同棲しようと、してくれと頼んだ。
彼女は何も言わず手を握ってくれた。
2人で妻の遺影に手を打ち、楽しい話をした。

そういえば、彼女は寡黙な方だ、俺が楽しい話をしたら笑ってくれる、愚痴をこぼしたら共感してくれる、泣いていたら慰めてくれる。

でもそれだけだった。
彼女から話してくれる日が来るといいのだが。
最初みたいに。

少し一日黙ってみた、すると彼女は何も言わず側にいてくれた。
ありがたかった、けどそれだけだった。

俺の仕事が順調に右肩あがりになりだした頃か、彼女が口を開いたと思うと、結婚してくれと言ってくれた。
少し考えたけど、彼女を手放すのは惜しかった。
婚姻届けも、結婚式もしなかったけど、楽しい日々だった。

すっかり立ち直った俺を見て、上司は酒を飲みに行こうと誘ってくれた。
彼女にメールをしようと思ったが、メールアドレスを知らない。
でも、まあ、今日くらいは、そう思い酒を飲んだ。
上司が、泣いていいと言ってくれた。
俺は泣いた、枯れ果てた涙が、また人の手によって復活した。

少し遅くなって帰ると、彼女はただそこに座っていた。
俺の姿を見ると、話しかけてくれた、結婚してからは話す様になった彼女。
上司の事を話して、また笑った。


そこから数日すると、妹がやってきた。
久しぶりに家族に会えたし、ボーナスもある。
立ち直るまで支えてくれた妹に礼でもと思い金をやった。


「そういえばお兄ちゃん、よく一年で立ち直れたね。
前はすごい辛そうだったのに。」


「ああ、まあ、色んな人に助けてもらったからな。
俺は幸せ者だよ。」


「恋愛に発展したり?」


「恥ずかしながら。」


「えーー!どんな人?紹介してよー。」


「ん、多分そっちに、あれ?」


彼女はそこにいなかった。どこを探してもいなかったので。
今日はいないみたい、と妹に告げた。
すると妹の顔つきが変わり、家の中を散策し始めた。

止めても止めても探し続ける。
まるで何か1つでもそれがあってくれと頼む様に、ずっと探していたが、ようやく諦めて、泣きながら家の電話がある場所に歩いて行った。


何かわからないまま俺は親に車へ乗せられた。
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