誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
俺だって、人殺しについて考えたことはある。
でも、この手足も首も枷【かせ】で繋がれちまっている。
なあ、藤堂さん、気付いてるか?
考えたり悩んだり苦しんだりできるのは、あんたが、選べる立場にあるからだ。
あんたは繋がれていない。
だからそうやって自分なりの答えを探そうなんて思って、じたばた足掻いたり伊東さんに感心したりできるんだ。
それは、勝海舟や土方さんの走狗【そうく】に過ぎない俺には、できないことなんだ。
斎藤は何も言葉に出せぬまま、藤堂の語る伊東の理論に耳を貸していた。
開港だとか貿易だとか海軍だとか、果ては英語を学ぶのがよいだとか、今までの藤堂ならば考えも付かなかったような話題を、楽しげに繰り出してくる。