誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
四 会津藩主


火種には巻き込まれておけ、と斎藤は勝に指示されている。


危険な役目や厄介事は買って出ろ。


ただし、目立つな。


近藤と土方の信用を損ねるな。


誰とも不和を起こすな。


親しすぎる者を作るな。



勝の指示の通りに実行するのは、難しいことではなかった。


もともと試衛館時代の最初から、斎藤は、付かず離れず、寵愛されない代わりに嫌厭【けんえん】されないといった位置付けである。


儀礼の右の剣と戦闘の左の剣の使い分け、つまりは表の顔と裏の役目の切り替えも、切れ者で鳴らす土方でさえ認めるところだ。


斎藤が名乗りを改めた本当の事情に、現時点では誰も考えが及んでいないようだった。


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