誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


元治元年(一六八四年)十一月、江戸における隊士募集に応じた人員が、京都の新撰組と合流した。


その中に、北辰一刀流を使う剣客にして水戸学を修めた論客、伊東甲子太郎【いとう・かしたろう】がいた。


長身で、涼しい顔立ちの男前である。


伊東は、同じ北辰一刀流の使い手である藤堂平助の紹介で、近藤と対面したらしい。



京都に戻ってきた近藤は既に、極端なまでに伊東に傾倒していた。


もともと近藤は、学があって弁舌の巧みな人間を好む。


近藤自身は学問が得意ではないし、演説が下手とまでは言わないが、決して言葉巧みではない。


今までを振り返れば、学問のできる山南敬助を試衛館時代から重んじていた。


良くも悪くも弁舌の切れる武田観柳斎がのさばっているのも、近藤が必要以上に武田の口のうまさを評価するせいだ。


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