クールな准教授の焦れ恋講義
その先
 先生と想いが通じ合ったけれど、それでも私はどこか夢見心地だった。ただ、先生は二人のときは私のことを「奈津」と名前で呼んでくれるようになったし、会うとキスもしてくれる。

 先生が家で本を読んでいるとき、くっついていても(邪魔にならないなら)受け入れてくれる。デートらしいデートはしていないけれど不満はない。

 というより新年度が始まり、どちらも仕事のことで慌しい毎日を過ごしていてデートはおろか会う時間を確保するというのも難しい現状だった。

 私が直接の担当ではないとはいえ、今年度から開始した企画展が新聞でとりあげてもらったこともあってなかなかの盛況ぶりを見せている。始まったばかりなのでこの忙しさはしばらく続くだろう。

 他の雑務もこなさなくてもならないし、私が段取りした調査も本当は行きたかったけれど今回は担当を外れた。

 私は調査が好きだった。もちろん先生と一緒にいたいという下心もあるけど純粋に現地の人から話を聞いたり資料を見せてもらったりとなかなか貴重な体験が出来て面白いのだ。その後の報告をまとめるのはなかなか大変なのだが。

 今回はその調査に西本先生も同行するらしく少しだけ複雑だった。西本先生は先生と同じ対等な立場で意見を言い合ったり、それに見合う知識を持っているのだ。

 あれこれ考えて軽く息を吐く。もうすぐ目的地だ。大きな通りから少し入り組んだ道に入り車を走らせていると「澤井古書店」と木の板に墨で大胆に書かれた看板が目を引いた。
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