聖獣王と千年の恋を


「ヂュチュエに話を聞いてくる。エンジュ、メイファンの警護を頼む」
「かしこまりました」

 エンジュが恭しく頭を下げると、ワンリーはそのまま窓から飛び出した。ここ二階ですけど!?

「ワンリー様!」

 メイファンはあわてて窓に駆け寄る。身を乗り出して外を見回すが、表の通りにも空にも、ワンリーの姿はない。なおもキョロキョロと見回していると、後ろからエンジュが声をかけてきた。

「大丈夫ですよ。ワンリー様は聖獣殿に向かわれました。人には見えないだけです」

 どうやらまた別の空間に行ってしまったということらしい。メイファンはホッと息をつく。
 よく考えれば、聖獣王が二階から飛び降りてケガをするとか間抜けなことがあろうはずがない。

 エンジュは微笑んで窓を閉めながらメイファンを促す。

「窓から離れてください。夜は魔獣の動きが活発になります」
「すみません」
「いいえ」

 メイファンが窓から離れて中央の机を囲むイスに座ったとき、卵粥が運ばれてきた。家でいつも使っている茶碗よりもひとまわり大きな器には具だくさんの卵粥が湯気をたてていた。

 エンジュに促されてメイファンは卵粥をひとくちすする。卵以外にほぐした鶏肉とコリコリしたキノコが入っていて、刻んだネギと青菜が散らしてある。いつも口にする卵粥より豪華で贅沢だが、メイファンは母の作る質素で素朴な卵粥の方がおいしいと思った。

 メイファンが卵粥を食べ終わって、器が下げられると、窓辺で外を眺めていたエンジュが振り返った。

「もうお休みになりますか?」
「いえ。まだ眠くありません。ワンリー様を待ちます」
「王はいつお戻りになるかわかりませんよ。半日歩き通してお疲れでしょう? どうぞお休みください」

 そう言われても、ひとりだけさっさと寝てしまうのは気が引ける。

「エンジュ様は休まないのですか?」
「我々の体は人のように疲れることはありませんので」

 そういえば、休息も必要ないと言っていたのを思い出す。けれどまだ宵の口なのでメイファンも眠くはない。ワンリーがいないこの機会に聞いてみたいことがあった。ワンリーの眷属ならエンジュは知っているかも知れない。

「では、私が眠くなるまでの間、少し話しませんか?」
「いいですよ」

 エンジュは穏やかに微笑んで、メイファンの斜め前のイスに座った。


< 29 / 147 >

この作品をシェア

pagetop