聖獣王と千年の恋を

5.帝都の異変




 職場町コンシはシンシュからテンセイへ向かう街道のちょうど中程にある一番小さな町だ。都から離れているため、物流に時間がかかるせいか物価も少し高い。数軒の宿と飲食店があるだけで、シンシュやセンダンのように露店は見あたらない。

 メイファンとワンリーは、町に入って一番最初にあった宿に入った。宿の食堂で夕食をすませ、案内された部屋はセンダンの部屋よりもさらに狭い。けれど疲れ果てていたメイファンは、そんなことなど気にしている余裕もない。寝台に腰掛けた途端に、横倒しになってそのまま眠ってしまった。



 翌朝メイファンが目覚めると、またしても腕の中には金茶色の子犬が丸くなっていた。目があった子犬はしっぽをフリフリして挨拶をする。

「おはよう」
「ワンリー様。何度も申し上げているように添い寝は……」
「それはできない」

 言い終わる前に拒否されて、メイファンは目をしばたたく。子犬は真顔でメイファンを見上げた。子犬なのに、この有無を言わせぬ威圧感はなんなのだろうと思う。

「おまえの腕の中は心地いいのだ」

 相変わらずの理由にメイファンは思わずため息をこぼした。結局これからもいつの間にか添い寝されてしまうということなのだろうか。
 でも子犬の姿ならそれも悪くないと流されそうになっている自分に気づく。なにしろ子犬のワンリーは姿も仕草もかわいくて、ほわほわの毛並みはこちらこそ心地いい。ただし黙っていればの話だが。しゃべるとどうしてもワンリーだと思い知らされてしまうから。


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