ばかって言う君が好き。

「あってる。あ、ほら帰ってきたよ。」
 直人の言葉の後、CMから開けると空港から場面ははじまった。画面の中の彼はスーツに身をつつみ、出口で彼女を待っている。

すらっと髪の毛を胸の下まで伸ばした彼女が出てきた瞬間、彼らはどちらからともなく駆けあって、数秒見つめ合う。

涙を目に浮かべた彼女。

抱擁も、言葉を交わすことも、何もしない。
ただ見つめ合うだけ。
それでもその目が二人の気持ちを物語っている――――

「ただいま。」
「おかえり。」
 二人はようやく言葉を交わすと、抱き合った。
空港の大きな窓から差し込んでくる光が、二人のこれからを導いてるみたいに、彼らを照らした。

そこから場面は変わり、後半に入ると彼女が海外に行く前と変わらない彼らの日常が始まる。

夜ごはんを向かい合いながら食べている二人。

醤油とってと言わなくても彼女が彼に手渡したり、彼女がご飯をこぼしたことに彼が微笑んだり、一つ一つのしぐさが幸せにあふれている。

私はそこに何か通じるものを感じて、思わず直人の顔をのぞき見したのだけれど、直人はドラマに必死みたいで私の様子に気が付かない。

でも彼の、ドラマに真摯に向き合っている横顔が少しおかしくて、私がぷぷっと思わず笑ってしまうと、さすがに直人は私に気づいて、なんだよと照れながら私を軽く小突く。

何でもないよ、そう返事しながら私はまた笑う。
テレビの中の彼女が笑うように。


「なあなあ、俺のパンツ知らない?」
 ご飯を食べ終わったテレビの中の彼が、お風呂に入ろうと彼女に下着の場所を尋ねた。

「え?洗って今日たたんだよ?そこにない?」
 彼女はたたんだ衣服のタワーに指をさした。

「あ、あった。」
 しっかりしてと言いながらも笑う彼女の表情は、未熟な蕾が花びらをきれいに広げた花のようで、彼はそんな笑顔にやられたのか彼女に近づいてキスした。

「お風呂入るんでしょ?早く行っておいで。」
 照れた彼女はごまかすようにわざと彼を突き放す。彼ははーい。とおどけた口調でお風呂場に向かう。

< 142 / 165 >

この作品をシェア

pagetop