マルチな彼女に首ったけ!

☆秋川ひとみ side

男性の独り暮らしだからと、野菜を色々出したら思いの外喜ばれた。

小鉢のおかずが次々無くなって行くのを見て、オムライスを作り出す。

大きな体を、なるべく小さく見せるかのように座っているのが、何ともほほえましい。

出来上がったオムライスと味噌汁を出すと、顔を輝かせながら食べ始める。
見ていて気持ちの良い食欲だった。

「もう、最高に美味いです!趣味は料理ですか?」

「大げさですよ。
でも、ありがとう。
趣味って程じゃないですよ。
趣味は………読書とかかな。
難しいのは読みませんけどね。
たまに図書館に行って借りてます。」

「へえ、図書館、まだ行った事無いなあ。この4月に転勤で来たばっかりで、慌ただしくて。
今までは実家だったから、鬱陶しい事もあったけど、有り難い事もあったんだな、って実感ですよ。」

「実家、隣のT町でした?」

「そう、兄が結婚して実家のそばに住んだから、何だか風当たりが強くなってきてね。
働いてはいるものの、居候みたいな俺としては肩身が狭いなと思ってきた処に転勤で。

実際独り暮らししてみると、掃除も洗濯も食事も全て自分でやらなきゃならないし、部屋に帰っても話す人もいないしで。
この年になってホームシックになったら恥ずかしいななんてね。」

照れながら自分の事を話す彼が、とても可愛く思えた。

私の方が年下だけど、弟がいたらこんな感じかも、と思う。

ご飯、食べさせてあげたいな。
仕事から帰ったら、話し相手になってあげたいな。

彼と話すと癒される気がして、もっと一緒にいたくなって。
彼も同じ気持ちでいてくれると、嬉しいかなと思う。

「時々でいいから、ご飯一緒に食べませんか?私、篠原さんに食べてもらえると嬉しいんです。」

つい、そう言っていた。

そう言って彼を見ると、驚いているような、戸惑いの表情を浮かべ、空気感が変わったように思えた。

私、今、何言ったんだろう?

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