【B】きみのとなり
「あぁ、すまなかった。
気にしないでくれ。娘のことになると、つい弱気になってしまうんだ。
夏海を一人、残していくのが心配でね。
これから旅立つ老人のたわ言だと思って聞き流してくれ」
そう言うと、再び時任さんは口を閉ざした。
「時任さん、入浴の時間ですよ。
気持ちよくなりましょうか?」
そういって桜の部屋にボランティアの人と介護スタッフが4人ほど姿を見せる。
それを合図にするように、オレは本館へと戻って仕事を続けた。
時任さんの状態が悪化したのは、それから2日後のことだった。
39度の熱が続き、呼吸が荒くなり、血圧が70前後をさ迷った後、
眠る様にして息を引き取った。
最愛の娘である時任の手を息を引き取るまで、ぎゅっと握りしめながら旅立った。
時任さんが遺してくれた言葉が、
オレの心を優しく包み込んでくれた。
なぁ……親父、おふくろ、そろそろ許して欲しいって頼んだら、
ムシが良すぎるか?