【完】さらば憧れのブルー

「何?」
 


「……俺と一緒にいるの、嫌だろう?」
 


「え……」
 


「俺のこと、『雄兄』って呼ばないようにしてるだろ?」
 


「……」
 


「ごめん。気づかないふりしていようと思ったんだけど」
 


「別に、一緒にいるのが嫌だからバイト入れてるわけじゃないよ?」
 


「うん」
 


「でも、『雄兄』って今は呼べないことは……」
 


「無理しなくていいよ。俺はそれでもいつまでも優花の傍にいるから」

 

車のアクセルを不器用にふかしながら、坂道発進をする雄太郎さんを横目で見ながら、胸が高鳴ってるのを感じた。
 


「お兄ちゃんとして?」
 


「うん……お兄ちゃんとして」
 


雄太郎さんの優しく笑った横顔に、その言葉が本当であることを確信した。

本当は、このままでも幸せなのかもしれない。

何も知らないまま、こうして雄太郎さんの妹としていることが……。


でも、私はそれでも昔の記憶を取り戻したいと思ってしまう。
 


『俺たちは、友達だった……色々悩みを相談し合えるくらいの仲がいい、友達……』
 


その言葉通りの関係であるのなら、『彩智』である存在を無くした雄太郎さんは、誰に悩みを相談しているのだろうと思うから。

もしかしたら、美由紀さんに相談しているのかもしれない。

でも、美由紀さんと出会っていた頃にも悩みを相談していたのは『彩智』だったのだ。
 


それだけの存在であった『彩智』を、私は取り戻したいと思っている。

高鳴る胸をそっと抑えながら、車から見える外の街灯をぼんやりと眺めていた。


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