愛されることを知らない孤独なお姫様
「お嬢様」

お嬢様?

最近聞きなれなかった単語にドキッとした

「相葉さん...。」

振り返ればお母様とお父様の専属執事兼秘書でもある、相葉さんが立っていた

「少しだけ、時間を頂けますか?」

「嫌よ。」

「今、千秋様と直也様はおられません。私のかってな単独行動です。少しだけお時間をくださいませんか。」

「...わかったわ...。」

「ありがとうございます。こちらへ...」

迷ったけど話を聞くことにした

お母様とお父様に言われて来たんじゃないって言うのが一番の決め手だったのかもしれない

人影のない岩場へと来た

「千秋様はそろそろ秋様をお探しになれると思います。」

「なぜそう思うの?」

「数日前、橘家にお見合いのお話が舞い込んできました。大きな財閥でして、不景気の今、秋様とお見合いをし結ばれれば成功する。というお考えを千秋様はもっておられます。」

「お父様は...?」

「直也様は、千明様にはおっしゃりませんが
、私にこっそりと言いました。

“秋には自由に自分の道を進んでもらいたい”
今まで私達は秋を縛り付けていた。
家を出ていくのも無理はないだろう...。
ひとときの反抗期かもしれない。
けれど、秋も私の大切な娘だ
私たちの都合で秋の人生を縛り付けてどうする。
秋だって一人の人間なんだ。
大切な仲間も愛しいと思う人もいるだろう。
後継者も大切だが、それ以上に娘も大切だ。

と、おっしゃっていました。」

「そう...」

少し、涙腺が緩みそうになった

お父様の気持ちがこんなに暖かいものとは思わなかった

「相葉さん、私はどうすればいいと思う?」

「それは秋様ご自身がお決めになられることです。自分がどうしたいのか。それを考えて、最善の方法を探すんです。

秋様は得意でしょう?」

よくわかってるじゃない

私は考えるのが得意なのよ

「ありがとう。相葉さんには小さい頃から感謝しているわ」

相葉さんは私が小さい頃から何かと助けてくれた

お母様とお父様に会えなかったから相葉さんともなかなか会えなかった

「そろそろ私は戻ります。怪しまれてしまいますからね。」

「ええ。本当にありがとう。」

微笑んで、去っていった

私にこれを伝えるためだけに来てくれた

本当にありがとう。相葉さん...。

去っていく姿勢の良い背中に心の中でもう一度お礼を言った
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