遠くの光にふれるまで




 指定されたのは、燈吾たちが住む町の駅。

 燈吾や燈吾の親父さんは結構な霊力を持っていて、そこら中に天使や霊がいるのを知っている。
 見えるから助ける。そんな単純な理由から、怪我をした天使たちの世話をしたり、さ迷う魂を安全な場所にかくまったり、そのことを常時連絡してくれたり。
 俺も昔世話になったひとりで、以来なし崩し的に天部の公認となり、交流を続けていた。

 出会った頃、鼻水垂らしながら棒切れで俺に勝負を挑んできていた燈吾も、もう二十歳になるらしい。人間の時間は本当に早い。

 せっかくこの町に来たのだから久しぶりに篝火家に顔を出して行くかな、なんて考えながら、少し離れた位置で駅前にいる人間を順番に見ていく。

 が、それも必要なかった。

 そこにいる人間たちの中で、ひとりだけ、強い霊力を持つ女がいた。
 燈吾のそれ、とまではいかないが、普通の人間にしちゃあ立派なもんだ。それにちゃんとコントロールもできている。


 女に声をかけて確かめると、やはりこいつが丙さんの待ち合わせの相手らしい。
 目をぱちくりさせている女の、頭のてっぺんから足の先まで、じっくり観察した。

 こいつが本当に丙さんの女なら、今までと随分違うタイプを選んだもんだ。
 今まで丙さんが付き合った女は、ちゃらちゃらしてるっていうか、けばけばしてるっていうか……。

 女に丙さんが来られなくなった旨を伝えても、怒りもせず、泣きもせず、ただ、仕方ないと言った。
 丙さんの女かと問えば「丙さんが言った通り」……つまり現世で世話になった人間だと言う。


 なるほどね。
 空気も読めるし、我が強くない。理解もある。
 こういうところに、丙さんは惚れたのかもしれない。


 女は、ちょうど通りかかった友人らしき男に誘われ、飯を食いに行くことになったが、去り際に丙さんを気遣う言葉を口にした。
 俺は勘が鋭いほうではないが、多分、俺の予想は当たっているだろう。





< 29 / 114 >

この作品をシェア

pagetop