遠くの光にふれるまで
それから少し経った非番の日。同じく非番の千鳥と一緒に現世へ向かった。
今日は篝火家でカレーパーティーをすると前々から言われていたから、人間界で実体化できる薬も飲んで、人間らしい服も着た。
篝火家に到着した俺たちを、花はいつも通りのほのぼのした笑顔で迎え、そして白いエプロンを差し出した。
首を傾げると「みんなで作るんだよー」とのこと。
ああ、ただでカレーは食わせない、食いたいなら手伝えってことね。
台所では、黄色い腰巻きエプロンを付けた若菜と、ピンクのエプロンをつけた燈吾の妹あかりが、じゃがいもの皮を剥いていた。
食卓では黒いエプロンの燈吾と春一が、たどたどしい手つきで人参の皮を剥く。
「おせーぞヒバリ! 早くエプロン付けて手伝え!」
言われて改めて、渡されたエプロンを見る。白いレースのふりふりエプロン。千鳥はともかく、俺には絶対に似合わない。
燈吾と春一はにやにやしながら俺を見ている。こいつら……俺にこのエプロン付けさせて笑う気だな?
「おい春一! てめえのエプロン貸せ!」
やつらの思惑が分かってしまったから、どちらかといえば弱そうな春一に掴みかかって脱がしにかかる。
「はいはい、暴れない。包丁もあるんだから危ないですよ」
それを止めたのは若菜だった。
若菜は俺からふりふりエプロンを奪って、代わりに自分の黄色い腰巻きエプロンを差し出した。
「宿木さん、これならいいですよね。これ付けて、千鳥ちゃんと玉ねぎ剥いてください」
これだけ穏やかに説得されたら、納得するしかない。
素直にそれを受け取ると、若菜は「こんにちは、宿木さん」と。明らかにタイミングのおかしい挨拶をしたから、完全に気が抜けてしまった。
大きな寸胴鍋でじっくり煮込んだカレーは、今まで食べた中で一番美味いと思った。
俺を含めた男連中は何度もおかわりして、苦労して大量に作ったカレーは、ほとんど残らなかった。
一番おかわりしていた燈吾の親父さんは「二日目のカレーが一番おいしいのにー」と駄々をこね、娘のあかりに説教されていた。
若菜はみんなより少し小さい皿とスプーンで、ちびちびと食べていた。顔色は、やっぱりあまり良くない。
「ちゃんと食わねえと、大きくなれねえぞ」
からかうように言うと「宿木さんはもりもり食べて、凄く大きく育ちましたね」と返す。
話す感じはいつも通り。空気も読めるし理解もある。よく気がつくし、世話好き。カレーを作っている最中も食い始めてからも、ぱたぱたとあちこち歩き回っていた。
体調が良くないならじっとしてればいいのに、とも思うが、そういうたちじゃないらしい。