愛されたい、だけなのに




家までどうやって帰って来たかわからない。



頭の中は、母親に対しての怒りしかなかった。



「…お母さん!」


玄関の扉を開けて、久しぶりに名前を呼んだ。


夜の仕事をしている母親は、きっと今の時間はいるはず。



「お母さん!!」


玄関から再び大きな声で呼んだ。



理由をハッキリさせるまで、家には上がりたくなかった。




「お母さん!!」

「何よ、うるさいわね」


もう一度呼ぶと、めんどくさそうに玄関まで出てきた。



寝ていたのか、髪がボサボサでパジャマ姿だ。




「…どういうこと、これ」


ぐしゃぐしゃになった手紙を見せた。


「は?何?」


母親の顔を見るだけで、怒りで身体が震える。



「学費が滞納してるってどういうこと?私、バイト代渡してたよね?」


寝ぼけ顔の母親の顔を、睨みつけるように言った。



「一緒に暮らす条件は、生活費と学費は自分で稼ぐことだったよね?だから私はバイトして払ってた!!なのに、滞納ってどういうこと!?」



怒鳴るように言い放った。



「…うるさいわね。近所迷惑でしょ」


溜め息をつきながら平然と言った母親の言葉に、さらに怒りが増す。


近所迷惑?


今はそんなことを気にしてる場合じゃないでしょ!!?


「私のお金…どうしたの?」

「は?」

「は?じゃなくて、私のお金…学費払ってないならあるんでしょ?返してよ」

「…」

「返して」


¨返して¨という言葉に、母親は黙って目を逸らした。




「…」



その反応に、まさかー…と思ってしまった。






「…ないの?」



私が働いたお金ー…




居場所を守るために、働いたお金ー…



「ないの…?」





最後に出た言葉は、情けないぐらい弱弱しくなってしまった。









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