僕は君に夏をあげたかった。
「……ありがとうございます」


私はキャンバスを受け取った。

ズシリと重い。

佐久良くんが私に残したものは、いくつもの想い出と、この重いキャンバス。

目の奥がぐっと熱くなったけれど、必死にこらえ、陽炎の中を帰っていく佐久良くんのお母さんを何とか泣かずに見送った。



………そして、佐久良くんのおかあさんが帰ったあとの誰もいない部屋で

私はキャンバスの包みをあけた。


佐久良くんが最後に描いていた絵。

私にくれると約束していた絵。

完成したら受けとってと、笑いながら言っていた絵。

夏の空のした、輝く海の近くで

私を描いてくれていた絵。


その絵が私の目の前に。


それは、

その絵は


「………あ」


まだまだ色もろくについていない。

未完成の絵だった。



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