僕は君に夏をあげたかった。
「………お父さん」

「どうだ。麻衣子?」

「…………」


お父さんの瞳。

いつも私を見守っていた穏やかな瞳。

今も私を心から心配しているように見える。

でも、もう信じられない。

私の唯一の家族で、何よりの味方だったお父さんはもういない。

きっともう……私よりもあの人の方が大切なんだ。


……もういい。

もう疲れた。

もう……どうでもいい。

全部、全部、どうでもいい。


「………わかった。おじいちゃんのところに行く」


私はそううなずいていた。

お父さんは安心したような、悲しそうな複雑な顔になって笑う。

それから私に何かを話しかけていたけれど

もう私には何も聞こえなかった。
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