僕は君に夏をあげたかった。
「………そ、んな……こと」


佐久良くんが私を見つめる。

儚げできれいな色の瞳。

いつも優しそうに見えていたその目が、今は私をあわれんでいるように見える。


「お父さんの再婚が複雑なのはわかるよ。だけど、再婚は悪いことじゃない。一緒に生きていく人をお父さんはまた見つけることができたんだ。それは……必要なことなんだと思う」

「そんな……だって、それじゃあ……」

「…お父さんは生きているんだ。亡くなった人でなく、新しいパートナーを見つけるのは当たり前だよ。

それにお父さんも新しいお母さんも、君を大切にしようとしている気がするんだ。上手くいかなくしているのは、松岡さんじゃないのかな…」

「………」



ひざが。

ひざが震えている。

佐久良くんにこんなことを言われると思わなかった。

私は……佐久良くんは自分の味方になってくれると思っていたから。



「………っ、もういい。そんな話なら聞きたくない」

「松岡さん」

「もう、いい…っ!」


きびすを返し、佐久良くんの前から走り去る。

夏の日差しの中、だらだらと汗を流しながら私は逃げた。

そしておじいちゃんの家に戻ると、自分の部屋へと閉じこもる。

おじいちゃんはなにも聞いて来なかった。


(……私、向こうにいたときと同じことをしている)


なんてみじめなんだろう。


お父さんも、…佐久良くんも

私がワガママだと、間違っていると言う。


私が悪いの?

そんなに悪いの?

再婚なんてしてほしくなかった。

お父さんと2人で支えあって生きて生きたかった。

だってそうじゃなくちゃ


お母さんがかわいそう。


再婚なんかして、新しいおかあさんを認めたら、死んだお母さんのことみんな忘れちゃうに決まってる。

お母さんの居場所がなくなっちゃうよ。


「そんなの、いやだ……。さみしい……さみしいよ。お母さん……。助けて、お母さん……」


つぶやいた声にこたえる人はどこにもいない。


「……お母さん、…会いたい……」


ただ、私の泣き声まじりのつぶやきが部屋に溶けていった。
< 72 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop