僕は君に夏をあげたかった。
「……ねえ、佐久良くん……!シジミはどこに行ったんだと思う?商店街にもいないみたいで、私……私……心配で……」

「松岡さん……」


佐久良くんはとても苦しそうな顔をしていた。

まるで何かを諦めてしまったような、大切なものを無くしたあとのような、喪失感すら感じる顔だった。


「………多分、シジミの行き先は、松岡さんがよくわかっているんじゃないのかな」

「え………」

「猫は……」


佐久良くんはそこまで言って、先をためらうかのように言いよどむ。

でもすぐに強い表情で、再び口を開いた。


「猫は、……その生を終えるとき、みんなの前から姿を消すというから……」

「……!」

「…松岡さんも、そう……思っているんだろう?」


『顔を見ればわかるよ』と、とても悲しそうな瞳で佐久良くんが言う。

きっと、私も同じような顔をしているんだろう。


……思えば、昨日、この海に姿を見せたときからシジミはおかしかった。

どこか弱々しく、いつもより異様に佐久良くんに甘えていた。

私たちは、きっとあのときから予感がしていたんだ。

もう……シジミとのお別れが近づいていると。


「……シジミはもうお年寄りの猫だったし、商店街の人の話ではこの一年くらいでぐっと元気をなくしていたらしいから、もう寿命だったんだと思う……」

「シジミ……」

「昨日、松岡さんが帰ってから、シジミは俺の手をすり抜けて、どこかに行ってしまったんだ。その姿がなんかすごい今にも消えそうに見えて心配だったんだけど……

そうか……最後に松岡さんに会いに行ったんだね」

「……どうして」


その言葉とともに、涙がぽたりと目から落ちた。


…どうして。どうして私なんかに最後に会いに来たのか。

私はこの町に来たばかりで、シジミとも知り合ったばかり。

佐久良くんと比べても、それほどシジミと仲が良いと言いがたかったのに。
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