ウサギの王子に見初められ。
翌日は、営業との調整で平内さんと香さんとちょっと打ち合わせることになっていた。香さんがわざわざ会議室を押さえている。


「休憩室の片隅でもできますよ、3人だったら。そんなに時間もかからなそうだし」

「長くなるかもしれないし、落ち着いてできるほうがいいでしょ」

嘘だな。会議室なら周りに聞かれないからでしょ。

平内さんと開発室の中で話すときに、香さんがどう対応していいかわからなくなっている姿を見たことがある。話の内容は聞こえなかったけど、平内さんが完全に面白がっていて香さんはなんだか怒って立ち去っていた。

香さんは普段は名前で『タケル』って呼んでいるらしく、それが社内にいる時も出そうになったりして、結構不器用な人なのだ。


「あれ、真奈。それ、栞?かわいいね、見せて」

手帳に挟んだブックマークに気づいて、香さんが手を伸ばす。

「やっぱり小鳥だ、真奈ってこういうの好きだよね」

「引っ越しのお手伝いに行って、三上くんにもらったんですよ」

誕生日って言うのは恥ずかしいからそう言ってみる。

「ああ、そうか。さすが三上」

「ですよね。よく周りを見てるなと思って。開発内でそんな人他にいないですよね」

「そうだねえ。三上はモテるらしいけど、女子が喜ぶことがわかるのがポイント高いのかもね」

「うん、そうかもしれないですね」

言いながら、新情報がそれなりに気になる。 モテるの?誰に聞いたの?平内さん?



そこに平内さんが入ってきた。

「すいません、遅くなった」

平内さんは香さんといるときにはタメ口と敬語が混ざる。きっと二人でいる時は普通にタメ口なんだろう。

「見て。これ、かわいいでしょ」

香さんが自慢げに振って見せる。

「なにそれ?」

「しおり。真奈の手帳に挟んであったんだけど、三上にもらったんだって」

えー、香さん、それ平内さんに言いますか? 忘れてそうですけどね、一応私平内さんに振られてるんですよ、最近。

「ほら、トップが小鳥なの。かわいいでしょ」

「かわいいね。で、まずメールした件、やっぱりスケジュール何とかしてほしいんですけど」

平内さんは心から興味のなさそうな『かわいいね』をさわやかな笑顔で言って、仕事の話に入った。かっこいい。できる男って感じがする。女子トークには愛想よくしつつも華麗にスルー。こういう男らしい人がモテるんじゃないの?
< 26 / 67 >

この作品をシェア

pagetop