遠回りして気付いた想い
家に帰ると。

「やっぱり鞠山さんとこの兄妹は凄いわね」

母の声が、リビングから聞こえてきた。

最初は、大きな独り言だと思ってたんだ。

だけど、その内容が亜耶の事に関してだったから、つい。

「凄いって?」

そう言って、リビングに顔を出し聞き返していた。

「悠磨!帰ってたの?」

驚いた顔をする母。

そんなに驚かなくてもいいと思うだけど…。

母の話し相手は、妹の千春。

妹相手に何話してるんだか?

でも、亜耶の事は気になるから。

「ねぇ、凄いってどういう風に?」

オレは食い付き気味に母に聞く。

「あそこの兄妹は、勉強はもちろんなんだけど、運動も出来るのよ。それも、かなり前から言われてた事だけどね。市の運動会には、必ず二人とも引っ張り出されてたの。二人が出れば、優勝まではいかないとしても、三位までには、入れるって言うくらいまでね」

母が、大袈裟なぐらいの言い回しで言う。

二人が出れば、三位確実って…。

何だよそれ。

オレは、市の運動会には今まで一度も参加した事無いが…。

「会場に行けば、彼のファンが凄いのよ。それに、一流大学にストレートで入って、首席で今年卒業したとも聞いてる」

自分の事の様に語る母を怪訝に思いながら、続きが聞きたくて、黙っていた。

「妹の亜耶ちゃんも、お兄さんに負けじと運動能力が高いんだよね。小学生の時、よくリレーのアンカーを任されててさ。男の子を抜いて、一位を取ってたのよ」

誇らしげに語る母が、ちょっと痛いかも…。

他所様の子供を誉めて、自分の子を誉めないって…。

それにしても、何で母は、鞠山家の事詳しいんだ?

「それ、何処からの情報なんだよ?」

「何処って、母親同士の交流?」

何で、疑問符がついてるんだ?

「まぁ、亜耶ちゃんの事を狙ってるなら、頑張りなさいよ。お母さんは、応援してるからね」

って、ニンマリと笑みを浮かべて言う、母。

オレ、そんな事言った事無いのに、何故バレてるんだ。

「そんなんじゃない!」

つい怒鳴ってしまった。

そんなオレを見て、楽しそうに笑う母と千春。

「なっ…」

こいつら、オレの事馬鹿にしてるよね。

オレは、その場から逃げるように自分の部屋に向かった。


ベッドにダイブし、枕に顔を埋める。


結局、オレは亜耶の事、何も知らないんだと思い知らされた。

それに、今のオレの目標は、あの二人だ。

あの二人の背中を追って、こせれたら少しは、自信が付くのだろうか?

オレは、目標に向かってガムシャラに歩き出した。
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