海老蟹の夏休み
 チケットを握りしめて入場口まで行くと、横に立て掛けられたボードに眼を留める。
 今日のイベント予定が書き込まれていた。
「えっと、川辺のいきもの工作教室……ああ、夏休みの宿題向けのイベントだ」
 ロビーが親子連れで賑わっているのは、その会場に使われているからだとわかった。

 ザリガニ釣りは毎日開催と書いてあるのを見つけて、朋絵はあらためて嬉しくなる。
 ただし、参加できるのは小学生の子どもまで。もちろん承知していたが、ちょっとがっかりした。

 ボードには穂菜山全体のイベントポスターも貼られている。夏休み中にまた来ることはないと思うが、朋絵は一応チェックした。

 穂菜山では毎年様々な夏のイベントが行われる。最大の目玉は、今も昔も花火大会のようだ。
「でも、私には関係ないし……」
 タウン誌の見開きページを思い出し、拗ねた気持ちになる。浴衣姿のカップルが、仲良く花火観賞していた。

 朋絵はぶるっと頭を振る。そんなことを今考えたってしかたない。
「参加できないけど、ザリガニ釣りはあとで覗いてみようっと」

 昔と同じように、水族館脇の三日月池が会場だ。
 帰りに寄ることに決めて、まずは館内をひと回りするため入場口に進んだ。

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