海老蟹の夏休み
 特殊な仕事に就くという選択肢はない。
 平均的な企業のサラリーマンである両親も、そう望んでいる。

 とにかく、実力を最大限に伸ばして届くことのできる大学。つまりB大に入るのが唯一の道であり、そのために秀美は、朝から晩まで机にかじりつく日々を過ごしている。

(生き物の勉強って、楽しいのかな)

 考えるけれど、考えたこともないことなので、わからなかった。


 各展示室を一周すると、かなりの時間が過ぎていた。
 じっくりと見すぎたためか、朋絵は何だか頭がふらふらしている。
「ちょっと、休んで行こう」
 出口手前にあるベンチに腰かけた。天井から休憩コーナーと書かれた札が下がっている。
 そのわりに陰気なスペースであり、誰もベンチに座ろうとせず通り過ぎて行った。

 閑散とした場所に独り休み、朋絵はぼんやりとした。

「疲れちゃった……」
 小さく呟くと、右肩をさすった。
 勉強道具が入ったバッグは重く、肩に食い込んでいる。
 どこにも預けるところがないから、持ち歩くしかない。というよりも、持っていないと不安であり、あえてロッカーを探したりしなかった。

(もう、帰ろうかな。図書館はまだ開いてるし、今からでも……)

 朋絵はいつしか、夢から醒めた気持ちになっていた。
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