【禁后-パンドラ-】
そうしてしばらく月日が経ったある年、1人の女性が結婚し、妻となった。

八千代という女性だ。

悪習が廃れた後の生まれである母の元で、ごく普通に育ってきた女性だった。

周囲の人達からも可愛がられ平凡な人生を歩んできていたが、良き相手を見つけ、長年の交際の末の結婚となったのだ。

彼女は自分の家系については母から多少聞かされていたので知っていたが、特に関心を持った事はなかった。

妻となって数年後には娘を出産、貴子と名付ける。

母から教わった通り隠し名も付け、鏡台も自分と同じものを揃えた。

そうして幸せな日々が続くと思われていたが、娘の貴子が10歳を迎える日に異変が起こった。

その日、八千代は両親の元へ出かけており、家には貴子と夫だけだった。

用事を済ませ、夜になる頃に八千代が家に戻ると、信じられない光景が広がっていた。

何枚かの爪が剥がされ、歯も何本か抜かれた状態で貴子が死んでいたのだ。

家の中を見渡すと、しまっておいた筈の貴子の隠し名を書いた紙が床に落ちており、剥がされた爪と抜かれた歯は貴子の鏡台に散らばっていた。

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