未来の君のために、この恋に終止符を。
晴樹が私の正面に立って、身をかがめる。
もうためらわない掌が私の頬を包みこんだ。
未来の晴樹が触れた時の、風が撫でる感覚とは違う。
2年前より大きくなって男の人の手になったそれは、それでもやっぱり晴樹の手だった。
「ねぇ、実莉」
呼びかけられた私は視線で応える。
黙って視線を交えただけで、ふわりと胸が弾んだ。
「実莉は俺たちが付き合っていたら傷つくだけだって言ったけど、これからどうなるかなんて決まってないんだよ」
ひくりとしゃくりあげる。
瞳からこぼれた涙は彼の指先から手の甲を転がった。
「俺は実莉と付き合って傷ついたことなんてない」
うそだ、と思った。
そんなわかりやすいうそ、吐いてどうするんだとも。
だって彼の表情は、行動は、過去の晴樹とは違う。
徐々に変わったわけでもない、突然の変化の原因は私の言葉や態度や腕の傷だ。
そんなのよくわかっているのに。
ああ、だけど……私が晴樹を傷つけたことで傷ついていたように、彼の傷も私を傷つけたことだというのなら。
それはきっと、互いにとっての傷じゃない。
私の腕に残る痕は、そんなものではないから。