未来の君のために、この恋に終止符を。




晴樹が私の正面に立って、身をかがめる。

もうためらわない掌が私の頬を包みこんだ。



未来の晴樹が触れた時の、風が撫でる感覚とは違う。

2年前より大きくなって男の人の手になったそれは、それでもやっぱり晴樹の手だった。



「ねぇ、実莉」



呼びかけられた私は視線で応える。

黙って視線を交えただけで、ふわりと胸が弾んだ。



「実莉は俺たちが付き合っていたら傷つくだけだって言ったけど、これからどうなるかなんて決まってないんだよ」



ひくりとしゃくりあげる。

瞳からこぼれた涙は彼の指先から手の甲を転がった。



「俺は実莉と付き合って傷ついたことなんてない」



うそだ、と思った。

そんなわかりやすいうそ、吐いてどうするんだとも。



だって彼の表情は、行動は、過去の晴樹とは違う。

徐々に変わったわけでもない、突然の変化の原因は私の言葉や態度や腕の傷だ。

そんなのよくわかっているのに。



ああ、だけど……私が晴樹を傷つけたことで傷ついていたように、彼の傷も私を傷つけたことだというのなら。

それはきっと、互いにとっての傷じゃない。

私の腕に残る痕は、そんなものではないから。






< 203 / 214 >

この作品をシェア

pagetop