花舞う街のリトル・クラウン
「どうしたのよ、アーディ?」

メアも何も知らない様子で不思議そうに尋ねる。


「さっき、店で聞いたんだ。急いでリルに伝えなきゃって思って…」


アーディは行きも切れ切れに言った。


「落ち着いて聞いて。シオンが…」

「シオン?」


メアは眉間にしわ寄せてその名を繰り返す。

大好きなその名前に、リルは無意識にペンダントを握りしめた。


「シオンが、今日婚約する」


リルは目を見開いた。

まるで時間が止まったかのように感じた。

それほど衝撃的な言葉だったのだ。


「はあ?婚約って、誰と?」

メアの問いにアーディは答える。


「クレーラ・ボストだよ」


その名前にリルは身を固まらせた。

クレーラ・ボスト。それは先日ルミナリアを届けた客であり、このペンダントを壊した張本人でもある。

今のリルにとって一番会いたくない人物であると言える。


「ちょっと待ってよ」と話を止めたのはメアだ。


「クレーラ嬢は前からシオンにぞっこんだって話はよく聞いていたけど、この前のお見合いだってシオンはきっぱり断ったんじゃなかったの?会いもしなかったって…」

「どうやら伯爵の力を相当使って、シオンの側近連中を取り込んだらしい。シオンもそろそろ身を固めないといけない時期だって、周りから相当言われていたし、相手が伯爵令嬢ならちょうどいいだろうって判断されたみたい」


苦い顔をするアーディに、オリバーは「シオンもそんな年になったのか、感慨深いのう」と目を細めている。

そんなオリバーを気にせずメアはアーディに詰め寄った。

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