花舞う街のリトル・クラウン
打って変わって敵意を抜き出しにするような厳しい視線と噛みつかれそうな雰囲気に、リルは慌てて「違います」と首を振る。


「違いますよ、彼女はリル。メアの新しい友達です」


アーディの言葉を聞いたマドレーヌは「あら、そうなのん?」とふっと先ほどまでの柔らかな雰囲気に戻ったのでリルはほっと息を吐き出す。

彼女の変化に驚きながらも、リルは冷静さを取り戻して自己紹介をした。


「初めまして。リル・エトメリアです。花屋フルリエルでバイトをしています」


「フルリエルって、あのフルリエル?オリバー・ラビガータが店主のあの店で働いているって言うのん?そんなことは前代未聞よん!」


マドレーヌは目を点にしてひどく驚いた様子を見せたが、それは無理もないことだった。

フルリエルの店主・オリバーが自身の店でバイトを雇うなど未だかつてないこと。

あのオリバー・ラビガータの店でバイトをするということは、それ相応の実力が認められたということで、花屋を目指す者にとっては自身の店を構え営む以上に光栄なことなのだ。

そして花の国ダンディオーネでは花屋として出世することは、商人や村人に残された立身出世の唯一の手段。まさに庶民の希望の星であり、最大の出世街道である。

とは言え、リルは自身の立身出世を望むばかりか花屋になりたいとすらも思っていない。

約束を果たすための資金と宿のためにひょんなことからフルリエルでバイトをすることになってしまっただけなのである。花農家としての知識や素地はあるものの、他人が思うほどリルに花屋としての実力はない。

< 90 / 204 >

この作品をシェア

pagetop