クールなCEOと社内政略結婚!?
 ――嘘だ。

 踵を上げた雅さんが、孝文にキスをした。一瞬のことだったけれど、間違いない。そして彼女の踵が床に降りたとき、私に視線を向けた。私に気がついたあと挑むような表情を見せた。

 次の瞬間、私は弾かれたように踵を返してエレベーターに向かって走りだしていた。

 挑戦的な雅さんの視線。それに込められた意味に気がつかないほど私は鈍感ではない。あれは……。

 彼女からの宣戦布告だ。

 やっぱりあの噂は本当で、雅さんはやっぱり孝文のことがまだ好きなんだ。

 目の前につきつけられた事実に、胸が痛む。

 頭を整理できなくてデザイン部のフロアまで戻ると、トイレに駆け込んだ。幸い誰もおらず鏡の前に立つと、ひどい顔の自分がそこにいた。

 さっきの光景が目に焼き付いて離れない。自分ではどうにもできない負の感情が体の中を駆け巡る。

 じっと目をつむり自分の中の感情と向き合っていたとき、バッグの中でスマホが震えているのに気がついた。

 孝文からかもしれない。約束の時間になっても現れない私を心配したのかもしれない。
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