クールなCEOと社内政略結婚!?
 「いいね。この間のお詫びも兼ねておごるね」」

 どうせひとりでいても、色々と考えてしまう。どうやら敵は今日は現れないみたいだし。

 鳴らないスマホを見つめて安堵した瞬間、自分の考えが甘かったことに気がついた。

 まだ人が多く残るフロアが一瞬ざわつく。空気が変わったのを感じて、片付けしていたデスクから視線を上げると、みんなの視線の先に今最も会いたくない人が立っていた。

 咄嗟にデスクに突っ伏して、呼吸を押し殺し、自分がそこにいない、存在しないと暗示をかけた。

「宗次さん。ちょっといいかな?」

 いきなり肩を叩かれて、体がビクンと跳ねた。

 隣では社長ファンの梨花ちゃんが間近で見たイケメンに「きゃぁ」と声を上げている。 しかし固まったまま一ミリもうごかない私の耳元で、社長が小さな声で話をする。

「それで隠れてるつもりか? お前が動かないなら、今ここで昨日の話のかた付けても、俺は問題ないけどな……っと」

 そのセリフを聞いて、私は勢いよく立ち上がり、バッグを手に取る。その姿を見てニヤッと笑った社長が出口に向かった。

「お、お疲れ様でした!」

 フロア全体に届くように、声をかけて私は社長の後を追ってスタスタと出口に向かう。周りの視線を感じないように、心を無にして部屋を出ることだけを考えた。
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