兄弟ものがたり
「すみません、星見さん。傘、貸してもらえますか?」

「それは構いませんけど……大丈夫ですか?佐川さん」


もともと貸すつもりで出てきた星見は、手にしていた傘をそっと真悠に差し出す。
笑顔で受け取る真悠だったが、その笑顔はどこかぎこちない。


「返すのはいつでも構いません。ちゃんと誤解を解いて仲直りして、もし佐川さんの気が向いたなら、今度はご一緒にいらしてください」


“誰と”とは、言わなかった。
“三人で”なのか、それとも“二人で”なのか。

今は深く考えられなかったから、真悠はただ小さく頷き返して、借りたばかりの傘を広げた。
星見の私物だろうか、それともこんな時のために用意してあるのか、コンビニのビニール傘ではないモスグリーンの傘に入り、屋根の下に一歩足を踏み出す。

傘を打つ雨の音が、やけに大きく響く。
雨足が、先程よりも強くなっていた。


「帰り道、気をつけて下さいね。またのご来店を、お待ちしております」


深々と頭を下げる星見に見送られ、真悠は雨の中を歩き出す。
僅かに傘をずらして見上げれば、どんよりと曇った空が、どこまでも続いていた。

雨は、まだ止みそうにない。
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