月が綺麗ですね。

あなたを好きな理由





翌日。

驚くほど眠れなかった。

眠い目を擦って、登校中。


……少しだけ気になるのは、道行く人の視線。

何故なのかは分からないけど、さっきから私を見ている人がたくさんいる。

胸騒ぎがした。

何より心あたりが無いのが一番怖かった。


でも、今はそんなこと気にしてられない。

逃げたらダメだ、ここまで来たなら、突っ走る。

今日ちゃんと、話さなきゃ。

例え、嫌われたとしても、気持ちを貫かなくちゃ。

この恋が終わりを告げても、この一ヶ月を思い出にするために。


深呼吸をして、教室のドアをくぐった。



「おはよう、瑠璃子」

「おはよ」

「ねぇ、なんか…」

「環那、あんた噂になってるよ」

「はぇ?」


珍しく、不安そうな顔をする瑠璃子。

―――私の思いも寄らない方向に、舵は切られていた。

言葉と共に突き出されたスマホの画面には、昨日の私と椎名くんが、椎名くんの家に入っていくところが、写真に収められていた。

月子さんだけギリギリ写っていない。


「あんたたち、付き合ってないよね?」

「…っ……」

「環那、しっかりしなさい」

「っつ、付き合って、ないよ……」

「そうよね…でも、ここには、《クール王子と秘密の同棲!?》って…」


まるで週刊誌みたいな見出し。

そうか、そういうことだったんだ。

ショックだったのは、彼が今までこういう環境に身を置いてきたということだった。

プライバシーなんて、欠片もない。

勝手にこんな風に写真に撮られて。

だからだ、だから彼は、ああやって……


「環那、!!!」


思い立った瞬間、止まらなかった。

私は教室を飛び出した。


ごめんね、椎名くん。

ごめんなさい。

私がいけなかったんだ。

全部、私が悪い。

もう、なんで私ってこんな馬鹿なんだろ。



椎名くんのクラスを覗いたけど、あの特徴的な栗色は無くて、考えた末、もうあの場所しか思いつかなかった。

走る、力の限り走った。

一刻も早く、彼の元へ。



バン!


勢い良く屋上の扉を開けると、とにかく叫んだ。


「椎名くん!!」

「っ……」


やっぱり、いた。


「椎名、くんっの、せいじゃないから、ねっ…?」


フェンスの方を向いて振り返らない彼に、息切れの収まらない声で、必死に伝えた。

これだけは、絶対に伝えたかったこと。


「私っ、馬鹿で、ごめんね。本当に、ごめんっ、なさい…っ」

「望月…俺は…」

「四六時中、注目される椎名くんのこと、分かってなかった……私のせいで、本当に、ごめんなさいっ」

「望月、ちょっと黙…」

「あの時、変な闘士なんて、燃やさなきゃ良かったんだよね…っ、浅はかでごめ…」

「環那っ!!」

「っ…!?」


勢い良く振り返った彼は、私の名前を呼んだ。

こんな時なのに、じわじわと、嬉しくて。

でも、悲しくて。

やり場のない感情は、涙へと姿を変えた。



< 24 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop