月が綺麗ですね。

恋なんてしない





「さてと…どうする?放課後までここにいるか?」


温もりが離れていく。

もうちょっと、なんて言いかけて、ぐっと堪えた。

そして、平静を装った。


「う~ん、今はそれしかないかな……」

「あ、することねぇからって、告白連発はやめてくれよな」


そんな私に気づきもしない彼は、勘弁してくれと言う。


「連発はしませんよ…」


ため息混じりに言葉を落とした。

こっちが勘弁してほしい。

本気告白までしたって言うのに、こんなに近くにいても、意識さえしてもらえない。

近いのに、遠い気がする。


……私、このままこの人を追いかけて青春終わったりとかしないよね…?

普通にありそうなんだけど、いや、それも楽しいだろうとは思うよ?

でもやっぱり、雪絵さんのこともあるし、私としては彼女になりたいし……


「お前、なに百面相してんの?」

「……あんたこそ何笑ってんのよ」


人が真剣に悩んでいるのを尻目に、肩を震わせて笑う椎名くん。

笑顔が眩しいなこの野朗。

キレ気味、というかもうキレてる。

本当むかつく。

でも、


「……すき」

「は…?」


告白連発はダメなんていう言葉は、脳内から消え去って、ぽろっと口から飛び出したのは本音。

憎たらしくも、笑い続けていた椎名くんが真顔になった。

教えてよ。

中途半端に近いようで遠いこの距離は、一体いつ埋まるの?


「……望月、俺はもう恋愛はできないかもしれない」

「え、?」


突きつけられたのは、耳を塞ぎたくなるような言葉。

どうして、環那って呼んでくれないの?

また、そうやって突き放すの?


「悠華先輩のこともあって、たぶん、臆病になってんだ……人を好きになるってことが、もう分かんねぇ」


苦笑気味にそう零す彼は、諦めた顔をする。


「じゃあ、私にチャンスはないの…?」

「無いとも、言い切れねぇ……」

「何、それ…」

「でも、お前に興味が湧いてきた」


そこで一瞬視線を私に寄越す。

椎名くんは、意外とズルい。

分からないわけじゃない、失敗から、立ち直れないっていうのは。

……でも、諦めさせてくれないのは、ズルいよ…?


「……期待、しちゃうんだけど」


そんなことを言われたら、私は期待する。

そしてまた突き放されて、また期待するようなことを言われて、また期待して……


「それはお前の自由だ」


椎名くんは、決定的なことを言わない。

『かもしれない』とか、『無いとも言い切れない』とか、私の心を翻弄するようなことばかり。

本当に…ズルい。




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