シチリアーノは泡沫に
「皐ちゃん、こっちおいで」

「お姉ちゃん来て来てー」

演奏が一通り終わった後、皐はお客さんに呼ばれてテーブルをまわっていた。

楽器や曲の話をしたり、リクエストを聞いて演奏したりしているようだ。

いつもの皐じゃ考えられないくらい忙しそうに動きまわっていた。

その頬には先程よりも随分赤みが戻っていた。



「ゴロすけくん、ありがとう」

「え?」


少し上ずったような声に振り向くと、祐子さんが皐を見て目を細めていた。


「ゴロすけくんが来てから、皐は毎日すごく楽しそうよ」

そうかなと疑問に思って、祐子さんの視線を辿ると、皐がこちらを振り向いてにこっと笑った。


「五郎、みんなの飲み物もう無いよ」


「……はい」


いいんだ。

どんな形でだって僕が皐を愉快にさせているならば、それでいい。

僕の我慢強さはこの夏のために備えられていたんじゃないかと、僕は考えながら飲み物を注いでまわった。

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