コクリバ 【完】
「高木。うち来たのか?」
「……」
「俺のいない時に、うちに入ったのか?」
「……」
「いつだ?」
「……」
「あいつが怪我したときか?」
「……」
「そうなのか?高木!答えろ!おまえ、奈々に何した?妹に何したか聞いてんだろ!」
「……」

それでも何も言わない高木先輩に兄が掴みかかった。

「あのテーピングはお前だな!あの巻き方はお前だよ!おまえの兄貴に教えてもらった巻き方にそっくりだ!違うか、高木!」

もう、ヤメテ……

「……俺です」

高木先輩の低い声がした。

「ふざけんな!」

兄の叫び声と共に高木先輩が後ろに飛んだ。

「高木ー!」

兄が高木先輩の胸ぐらを掴んで、無理やり起こす。

「妹に何した!っまえは…あんな…ボロボロに…」
「違っ……」

ゴッ、という音がして高木先輩がまたしても床に倒れ、私の声はかき消された。

「やめろ。智之」
「妹はな、誰にやられたか聞いても、一切何も答えなかった」

涙声になった兄を菊池義人が押さえている。

「なのに、おまえは……妹を……」



「……もう、終わったことですから……」



ハッキリと聞こえた。

静かだったから教室にいた全員に聞こえたと思う。
高木先輩の、低い痺れるように大好きな声が、真実を語ったことを。


オワッタ、コト……


終わって、たんだ

視界が歪む。

コツンという音が背後から聞こえて、
あぁ私の頭がロッカーにぶつかったんだ
と、分かった。


とっくに、終わってたんですね。



「……う、ううっ……」
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